大学の学びはこんなに面白い

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研究・教育紹介

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「ナノテクノロジーとアイデアを駆使して、新しい発見や新しいものの開発をしよう!」

応用生物学部 村松 宏 教授 

応用生物学部 村松 宏 教授 

企業時代は、バイオセンサーやプローブ顕微鏡などの研究開発を手がけてきた村松先生。現在は「バイオナノテクノロジー研究室」を率いて、ナノスケール計測技術やマイクロ加工技術を用いた、細胞や生体分子の分析・解析技術の研究に取り組んでいます。今回は、その具体的な研究例や研究者としての夢を語っていただきました。

抗ガン剤(シスプラチン)を加えたDNAを原子間力顕微鏡で観察した画像

先生の研究室では、どのようなことに取り組んでいるのですか?

大きく分けると、一分子計測、ナノイメージング、一分子操作、ナノ物性評価という4つのジャンルの研究に取り組んでいます。例えば、一分子計測やナノイメージングの研究では、原子間力顕微鏡や近接場光学顕微鏡を使って、DNAなどの生体分子の形の変化を観察したり、分子間相互作用を評価したりしています。生体分子というのは、生命活動に関わる分子で、細胞中のさまざまなタンパク質やDNAなどのことです。例えば、細胞中のあるタンパク質とあるタンパク質がくっつくことで活性化し、化学反応が進み、私たちの生命活動は維持されています。私の研究室では、そのタンパク質の分子同士が相互作用している力、つまりどのくらいの力でくっついているのかということについて原子間力顕微鏡を使って調べています。

 

原子間力顕微鏡による分子間相互作用力の測定

通常、原子間力顕微鏡は、探針にかかる力を一定に保ちながら試料の表面を操作していって形を見るという装置です。そこで、ある生体分子を試料として用意し、探針には別の生体分子をつけて、それらを接触させて結合させるというふうに使えば、分子間の相互作用を評価することができます。つまり分子同士が結合したら、探針を上げて引っ張っていき、分子と分子の結合がどのくらいの力ではずれるかを調べることができるのです。
具体的には、人工ペプチドと実際のタンパク質分子との間の結合力を調べたり、抗がん剤とDNAとの結合の強さを調べたりしています。
この他に、一分子操作のジャンルでは、マイクロ光造形法を使った研究もしています。

DNAを巻き取るためのマイクロマシン

それはどういった研究ですか?

マイクロ光造形法というのは、特殊なレーザーを使って5~10ミクロンくらいのマイクロマシンをつくる方法のことです。髪の毛1本の太さが約100ミクロンですから、その10分の1くらいの大きさのマイクロマシンを、この研究室でつくっています。そして、それを使って、細胞や生体分子の操作をする予定です。例えば、マイクロマシンで実際に細胞を捕まえて壊したり、そこからDNAを取り出して、巻き取ったりします。ただ、今のところ、このマイクロマシンは、有機溶媒中で動かしている状況です。これを完全な水溶液中で動かせるようにすることが現在の課題です。なぜ水溶液中で動かせないかというと、マイクロマシンの素材が水をはじいてしまうからです。そうすると水中で表面張力のようなものが作用してしまい、動きにくくなってしまいます。その課題をクリアするために、例えば、酸素プラズマを利用する方法などを考えています。酸素プラズマとは、酸素を入れた状態で電圧をかけてできたプラズマ状態のことをいいます。酸素プラズマ処理によってマイクロマシンの表面を親水性にすることができます。他にも、水に界面活性剤を入れたり、表面張力の影響を受けにくい構造をつくるということも考えています。

■食品素材をナノスケールで観察する研究もされているそうですが? それは先ほどのジャンルでいうと、ナノ物性評価の分類に当てはまります。農林水産省の「食品ナノテクノロジープロジェクト」の一部を、私の研究室が担当しているのです。このプロジェクトでは、食品素材をナノ化したときに、どういう特性があるか、安全性に問題はないかということを研究します。ナノ化するということは、ものが非常に小さくなるため、これまでに入れなかったところにも入れてしまうということになります。そうなると、食品素材によっては、人体に問題を起こす可能性がないとは言い切れません。また、ナノ化するということは表面積が増えることでもありますから、米粉が酸化しやすくなるという問題も考えられます。そういう問題を確認し、安全性を評価する研究に取り組んでいます。もちろん悪い面ばかりでなく、加工性がどれくらい優れるかとか、どれだけ応用が可能かということについても評価しています。特に、この研究室では、プローブ顕微鏡を使って微細化した米粉の物性変化を調べる技術の開発を行っています。例えば、加熱した米粉のペーストが、ナノレベルで時間とともにどのように変化していくかなどの評価実験も行っています。

■先生にとって、研究の面白さとはどういうところにありますか? 

研究は、すんなりいくことがなかなか少ないものです。むしろ、だいたいは、うまくいかないと言っても過言ではありません。そうすると、本当に「もう無理じゃないか」という状況に何度も陥るわけです。しかし、そこをよく考えて、新しいアイデアで乗り切っていく。そういうことを何度も繰り返して、乗り越えていくことで、新しいものができてくるのです。そこが研究の面白さや、やりがいだと感じています。
学生にもそういう話はするのですが、なかなか理解してもらうのは難しいです。何でもすぐにできるというイメージが強いのかもしれません。学生実験では、うまくいくことがわかっているので、すんなりいくのも当然ですが、卒業研究の実験は、これまで誰もしたことのない実験ですから、壁にぶち当ることも多々あります。ただ、そこをなんとかがんばって、研究を通して、壁の乗り越え方や解決の方法みたいなものを身につけてもらえたらと思っています。

■最後に今後の展望をお聞かせください。

マイクロマシンでDNAを操作する研究について話しましたが、そうして取り出したDNAは、その配列を調べるためにDNAシーケンサーにかけます。DNAシーケンサーとは、大ざっぱにいえば、DNAを細かく切ってバラバラにし、そのDNA断片を、DNAを構成する4種類の塩基ごとに標識をつけて複製させます。さらにそれを電気泳動にかけて分離し、塩基配列を読み取るという装置です。ところが最近では、電気泳動をせずにDNA断片の配列を調べる「次世代DNAシーケンシング」というものが開発されています。これはバラバラにしたDNA断片を基盤上にランダムに固定し、その中で複製反応をさせる方法です。複製反応をさせると、特定の塩基がある場合は光り、ないと光らないということが起きます。それを見ていくことで配列を読み取るという仕組みです。またその次の「次々世代DNAシーケンシング」というものも考えられていて、これはDNAを増幅させることなく、一分子のDNAから出てくる蛍光を見ようという方法です。そんな中、私が目指しているのは、そのさらに次の「次々々世代DNAシーケンシング」の開発です。これは蛍光検出を使わないで調べようという試みです。先の長い話ですが、研究者としてぜひ実現したい夢のひとつです。
[2010年7月取材]

■バイオナノテクノロジー(村松宏)研究室
https://www.teu.ac.jp/info/lab/project/bio_spc/103.html

■プロジェクト独自ページ
http://www2.teu.ac.jp/muramatsu_lab/

・次回は9月10日に配信予定です。

2010年8月11日掲出