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省資源化や環境・エネルギー問題の解決につながる、面白くて便利な機能を持つ新しい材料を発見したい!

2020年11月27日掲出

工学部 応用化学科 高橋昌男 教授

工学部 応用化学科 高橋昌男 教授

  子どもの頃から化学実験や分析が大好きだったという高橋先生。大学では分析化学を学び、大学院卒業後にセラミックス合成の研究室に入ったことから材料化学の道へ。今回は工学部の現在の授業体制や研究室での取り組みについてお聞きしました。

■東京工科大学では新型コロナウイルス感染症の影響により、オンラインと対面の両方で授業が行われてきましたが、現在、工学部応用化学科では、どのように授業を進めているのですか?

  前期は7月から登校が可能になり、実験のみ対面で実施し、他の座学に関してはオンラインで行ってきました。そのオンライン授業も録画した動画を見て学ぶオンデマンド型と、リアルタイムに講義を行うものの2種類を使い分けています。また、インタラクティブ相談も実施していました。本学ではe-ラーニング用の学習支援システムMoodle(ムードル)を導入しているので、学生はそこにアクセスして授業動画を観るのですが、同時にその場で質問を受け付けたり、演習的な授業の場合は途中で演習問題をしてもらい、それを撮影したものを提出させたりと、オンデマンドに少しリアルタイム感のあるものを加えた授業もありました。
  後期からは、基本、キャンパスに登校する形になっています。ただ、工学部応用化学科の授業に関して言えば、基本は対面ですが、特に3、4年生の座学授業はオンデマンドを含むオンラインで、各自でスケジュールを管理しながら学習を進めてもらっています。1、2年生は、対面型とハイブリッド型(ハイフレックス型とも呼ばれる)で授業を行っています。ハイブリッド型とは、教室で対面授業を行うと同時にそれをライブ配信し、さらにその映像を後日、Moodleにアップロードするというものです。対面授業をライブ配信する意味は、例えば新型コロナウイルスの感染が心配とか、体調が悪いという学生もいるため、そういう事情がある学生に向けて自宅からオンラインで授業を受けられるようにしているのです。
  一方、実験は実際に器具に触れ、手を動かして取り組んでもらわないとできないものですから、対面で行っています。ただ、これにも工夫を施していて、実験を始める前の説明部分は事前にオンラインで行い、学生に実験ノートをつくって来てもらっています。ですから当日、キャンパスでは本当に手を動かす実験のみをしてもらう形です。また、1回に実験をする人数は普段の半分に減らしています。通常、40名程度が実験を行う実験室を20名で使うことで、人が密集することを避けているのです。

コロナ禍での対面授業の様子

コロナ禍での対面授業の様子

■では、先生の研究室での取り組みについてお聞かせください。

  私たちの研究室では、化学の力で省資源化や環境・エネルギー問題の解決につながる新機能を持つ無機材料をつくることや、その製造プロセスの開発などに取り組んでいます。例えば、高校の化学で電気分解の実験をしたことがある人もいるかと思いますが、それを応用した方法で、電気化学的に機能性薄膜をつくる研究をしています。簡単に言えば、電気分解とは、溶液の中に電極を浸けて反応させますよね。それと同じことをして、金属表面に機能性を持った新しい化合物薄膜をつくるのです。
  “光触媒”という言葉を聞いたことはあるでしょうか? 例えば、酸化チタンを窓ガラスや外装に塗っておくことで、有機物や汚れを分解してくれるというものです。この場合、酸化チタンが紫外線を吸収して汚れを分解するのですが、紫外線ではなく可視光線で反応させられないかということは、多くの研究者がずっと考えてきたテーマです。 私たちの研究室でもそれと似たようなことに取り組んでいて、電気化学的な反応(電気分解)でもって、チタンの表面に光触媒機能を持たせることに成功しました。具体的には、酸化チタン、つまり基本はチタンと酸素の化合物ですが、そこにほんの少しフッ素が入った化合物をつくったところ、恐らく太陽光線の影響だと思いますが、簡単に色素分解することがわかったのです。実際、色のついた水を入れておいたところ、1~2日でそれが無色透明になりました。この方法がうまく制御できるようになれば、色を変えたり色素を分解したり、あるいは除菌に応用できるかもしれないと考えています。
  この酸化チタンの光触媒膜を作製した方法を「電気化学的薄膜創製法(環境調和型プロセシング)」と名づけています。というのも通常、酸化チタンをつくるには数百度の高温で加熱する必要があるのですが、当研究室の方法は電気分解ですから室温で行うことができます。さらに電気分解は、高くて10ボルトくらいの電圧しか使わないため、製造に必要なエネルギーがほんの少しで済む分、省エネだと言えます。
  もうひとつの工夫としては、通常、この方法には水系溶液を使いますが、私たちの研究室では有機溶媒を使っている点です。水系溶液で電気分解をすると、水の電気分解が支配的になりますが、有機溶媒を用いれば試料表面の狙った反応を重点的に起こせます。その結果、本来なら高温でないとできない反応を室温でできるくらい反応性を高めることができるのです。
  このように薄膜に機能を持たせることプラス、その製造過程でも工夫をして省エネや環境負荷低減など、サステイナブル社会の実現に結びつけています。

電気化学的薄膜創製法で作製した光触媒膜

電気化学的薄膜創製法で作製した光触媒膜

■先生がこうした研究を始めたきっかけとは? また、どんなところにこの研究の面白さを感じていますか?

  本学に赴任する前、私は別の大学で半導体表面の洗浄実験の研究をしていました。半導体というのは、原子がずらりと並んだ堰があって、その10万個に1個にしか汚れがあってはいけないというものです。そこまでクリーンにしないと、私たちが使っている電子機器は動きません。ですから洗浄が非常に大事になってくるのです。その研究をしているときに、シアン化合物を使うと、室温でしかも短時間で、非常にクリーンな表面ができることを発見しました。ただ、このシアン化合物は毒性が高いので、使用後は安全に廃棄するために分解しなければなりません。この分解処理に電気化学反応を用いる方法を検討していました。その時、何か別の物質を入れて、その電気分解反応を利用できないかと考え、思いついたのが半導体材料であるケイ素(シリコン)の表面処理ができないかということでした。通常、シアンを電気分解するとCとNがばらばらになって、二酸化炭素と窒素ガスになります。しかし、すぐそばに何か物質を置いておけば、ばらばらになったCやNと反応を起こすかもしれません。そこでシアンが入った溶液の中でケイ素を反応させてみると、シリコンと酸素と窒素の入った化合物ができました。それがシリコンオキシナイトライドです。実はこの化合物は、900℃くらいに加熱して合成されます。それが室温でできたのです。さらに、いわゆる半導体デバイスに使えるような電気的な応答を示すものでもあったので、これは面白いと思いました。それが現在の研究で扱っている電気分解のプロセスです。
  ただ、当時はこれ以上の研究を進めることができませんでした。そこで本学に赴任したことを契機に、手つかずのままだったこの研究をしてみることにしたのです。ただし、シアンは猛毒で使えませんから、現在は色々な金属化合物を使って取り組んでいます。
  研究の面白さは、やはり新しいもの、これまでにないものをつくれるということが挙げられます。もうひとつは、私がもともと分析に興味を持っていることもあり、何か新しい材料をつくって、その性質や特性などを調べることに面白みを見出しているからです。よく学生に言うのは、この研究を野球に例えるなら、ピッチャーとバッターと守備とを全部一人でしているようなものだということです。材料をつくる(投げる)、解析する(打つ)、そしてどうなっているのか理解する(守備)というわけです。それらをすべて一人でしたいという思いがあり、それを実現できるところに面白みを感じています。

■今後の展望をお聞かせください。

  実は現在、生体組織や器官に適合する生体適合性材料の研究にも取りかかっています。生体を含め色々なところに使える新しい無機材料を発見したい、人が発想しなかったようなことに挑戦したいと思っています。しかも、できるだけ省エネでつくるということを実現したいですね。
  また、今、新しい材料を“つくりたい”ではなく、あえて“発見したい”と言ったのは、謙虚な気持ちを持っていたいからです。これまでになかった物質の組み合わせで新しい材料をつくるということは、私たちが生み出したものではなく、そもそも地球上にあった材料と材料を組み合わせたことで新たに発見した材料に過ぎません。宇宙のどこかに行けば、それと同じ材料がたくさんある星もあるかもしれない。ですから宇宙のどこかにはあるだろう物質をたまたま合成して見つけたという謙虚な姿勢で、新しいものを発見していきたいと思っています。

■受験生・高校生へのメッセージをお願いします。

  入試が近づき、受験勉強も佳境に入ってきた頃だと思います。私自身が受験生のときを振り返ってみると、例えば理系の場合、日本史や世界史など文系科目をあまり重視しない傾向がありますが、私はそうは思っていませんでした。高校で学ぶものは、すべて教養として必要なものだと考えていたのです。例えば、世界史などは理系・文系関係なく、世界を知るために必要な知識です。そういう広い視点で捉えてほしいと思います。ひとつの教養を身に付けるつもりで学んでおけば、受験科目に関係ない科目だと思いながら勉強するより、勉強がつらくなくなるのではないかと思います。
  また、大学に入学したら、ぜひ新しいことに挑戦してください。それと同時に、基礎の学びは絶対に怠らないでほしい。新しい物事を成すときは、結局、基礎的な学びをもとに発想するからです。そういう意味で、新しいことへのチャレンジと基礎固めの両輪を大切にしてほしいですね。

工学部応用化学科WEB:
https://www.teu.ac.jp/gakubu/eng/ac.html