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目指すは「学生フォーミュラ」出場!ICTツールを駆使した設計で工学的完成度の高いEVを追い求めます!

2021年9月24日掲出

工学部 電気電子工学科 高木茂行 教授

工学部 電気電子工学科 高木茂行 教授

東京工科大学では、革新的かつ実践的な教育活動の一環として、今年4月より各学部・学環における「戦略的教育プログラム」(第二期)が始まりました。今回は工学部での取り組みについて、高木先生にお話を伺いました。

■先生が担当されている工学部の戦略的教育プログラムについてお聞かせください。

 「AIデジタル設計・新材料活用モノ作り 教育プログラム」というプログラム名で、工学部の学生有志約50名が活動しています。これは第一期の戦略的教育プログラム「再生エネルギー利用EV製作プログラム(EVプロジェクト)」の第2期目と捉えてもらって差し支えありません。私たちも今期のプログラムを「EVプロジェクトⅡ」と呼んでいます。
 第一期では、プログラム名に“再生エネルギー”とあるように、サステイナブルや省エネルギーを一番の目標に取り組んでいました。ですから同性能の鉛電池かリチウムイオン電池を積んで、30分間でどれだけ走れるかを競う外部のエコデンレースにも何度か挑戦しました。また、最終目標として、学生の自作によるフォーミュラースタイルのレーシングカーの競技会「学生フォーミュラ日本大会」(以下、「学生フォーミュラ」)への参加を掲げていましたが、第一期の最終年度だった2020年の大会はコロナ禍で中止となり、参加はかないませんでした。
 そこで今期は、最初から目標を「学生フォーミュラ」のみに絞りました。「学生フォーミュラ」は大学約100チームが参加する、非常に規模の大きなイベントです。またこの大会への参加を目指すにあたり、今回は工学的な完成度を求めていきます。実際、「学生フォーミュラ」では、エントリー後に静的審査と呼ばれる書類審査から始まります。例えば、機械の構造計算を提出しないといけません。これだけでもすごいボリュームです。その後、電気回路を提出します。安全基準に則って、100種類以上の回路を書かなければなりません。また、車が壊れたときの故障モード影響解析(FMEA)や、いくらお金がかかったかのコストなども提出します。さらに学生によるプレゼンテーションがあり、どういう設計思想で、どういう計画で取り組んだかをすべて説明しなければなりません。そこまでクリアして初めて本選に行けるので、ハードルはかなり高いです。実は今年の大会にすでにエントリーして、今、書類の提出を順次進めているところです。ただ、仮にこうした静的審査に通っても、今年は本選には行けないだろうと思っています。というのも第一期で作った初号機はアルミフレームでした。それは市販されているものなので、それを使って作ることができましたが、今回は金属パイプで溶接した車体を作らなければなりません。それに費用がかかるので、今年度の費用はすべてそれに使う予定です。ですから今年は、静的審査を通ったとしても、車自体を完成させることができません。ただ、もともと2年計画でこの教育プログラムを進めているので、まず今年は静的審査を進めるところまで進むということで臨んでいます。そして来年度には車体を組み立てて電気回路を載せ、車を完成させて、ぜひとも「学生フォーミュラ」に参加しようと、今、頑張っているところです。
(※「第 19 回 学生フォーミュラ日本大会 2021」は静的審査までで終わり、9月に予定されていた車検/動的審査他のイベントは中止となりました)

■今回のプログラムの狙いは、“工学的な完成度”ということでしたが、具体的にはどういうことですか?

 工学的な完成度を目指すというのは、先述したように「学生フォーミュラ」に挑戦する過程で、電気回路の設計書を提出したり、コストのことを考えたり、きちんと動くかどうかの審査を受けるので、工学的に必要な検討項目をクリアしていかなければなりません。それには、CADやAI(人工知能)といったICTツールを使う必要があります。そういうICTツールを駆使して設計ができる学生を育成するということも、本プログラムの目的です。第一期では、まず組織を固めて、レースに出場することに必死でしたし、そこに注力していたので、工学的完成度を高めるためにICTツールを使って設計するところまでは及びませんでした。逆に第一期の「EVプロジェクト」で学生が主体的に取り組む体制や後進を育成する体制を築くことができたおかげで、2期目はさらなる完成度を目指すという形になったとも言えます。現在は、ほぼ学生主導で自主的にプログラムに取り組んでくれていますからね。
 具体的なICTツールとしては、3D CADソフトのCreoを設計に使っています。また、構造計算ができるパソコンを3台、プロジェクト室に設置しています。機械工学科ではCADの講義があるので、使い方は学生同士で教え合ったりして進めています。また、完成した図面を各部品の図面に落とす作業があるのですが、それは機械工学科だけでなく電気電子工学科の学生も含めて全員で行っています。その他、電気電子工学科の学生には、モーターを解析するJMAGというソフトウェアやPSIMという回路のシミュレータ、熱流体解析ソフトウェアのSTREAMも使えるように整えています。そのほか、必要とあれば購入して、学生たちに使ってもらう予定です。

 こうしたICTツールを用いたデジタル設計の必要性を感じたのは、第一期のエコデンレースでの反省からです。エコデンレースで優勝したチームは、コースシミュレーション、つまりコースの図面をとって高低差を測ることをしていました。それをすると、どこでどのくらいのエネルギーを消費するかといったことがわかります。そういうエネルギー計算やシミュレーションをしないと、優勝はできないようです。そこで去年、私の研究室に所属する「EVプロジェクト」のリーダーをしていた学生が、卒業研究として実際にコースシミュレーションをしてみました。すると我々が作った車は、コースの7.8周でバッテリーが切れるという結果になり、実際に走ったところ7周で止まりました。ですから、そういうシミュレーションがいかに必要かということが、よくわかったのです。今年のリーダーは、坂でモーターが回転することで発電してもう一度そのエネルギーを取り込む“回生”という技術のシミュレーションを卒業研究で取り組んでいます。電気自動車では、ブレーキをかけたときにそのエネルギーをバッテリーに充電する、この“回生”がとても重要です。
 このように、ある一定のレベルまでいくと、そこから先、もう一段ステップアップするには、シミュレーションなどの計算手法が必要になるため、今回はデジタル設計に力を入れる形にしました。

■現状の課題には、どのようなものがありますか?

 今の一番の課題は、車体フレームです。機械工学科が担当で、溶接してつくるのですが、今年は参加学生が少ないこともあって、まだ図面が完成していません。去年までは、機械工学科と電気電子工学科の学生は別々の部屋で活動していましたが、今回からはみんなで集まる日をつくって進めています。「学生フォーミュラ」では、車体も実際の車に近く、タイヤも軽自動車やレース用のモノを使うので、ひとつの工業製品を設計して作るようなものです。ですから常に連携して、2学科が一緒に取り組むようにしました。そのおかげでチームに一体感が出てきて、今、とても良い雰囲気です。
 もうひとつ、課題としては応用化学科の関わり方です。一応、素材分野で関わってもらう予定ですが、まだ具体的には決まっていません。応用化学科は何か新しい材料を開発しようと考えているようなので、そのうちのひとつはEVに使いたいと思っています。ただ、これは4年計画のうちの、後半の2年目の話になるので、2号機への搭載になるかもしれません。また、応用化学科の学生は、FRP(繊維強化プラスチックス)で車体カバーを作ることになっています。ただ、参加学生が少ないので、これからどう応用化学科の参加者数を増やすかも課題です。やはり取り組んでいることが、卒研に結びついていると、学生も継続して頑張ってくれますが、そうでないと難しいですね。機械工学科の学生は構造設計の部分で、電気電子工学科も熱計算などで卒研に関わっているので、3、4年になっても参加を続けてくれますが、応用化学科はなかなかこのプログラムと卒研テーマが結びつかず、1、2年生のときは頑張ってくれても、その後、研究室に配属されたり卒研が始まったりすると参加を断念するケースが多いので、そこは課題です。

■今後の計画や展望をお聞かせください。

 まず来年、1号機を作る計画で進めています。その次の3、4年目には、2号機に着手するつもりです。また、3、4年目は、学生たちに方針からすべて任せようと考えています。今の1号機は、機械加工や溶接ができないところもあって設計を主体にして、加工は外注する予定ですが、2号機に関しては、例えば学生が自分たちで作りたいと思えば、作ってもらっても良いと思います。また、「学生フォーミュラ」に出場できて、学生たちだけで運営できるようになれば、今期の戦略的教育プログラムが終わる4年後以降、独立したプロジェクトとして続けていければと考えています。というのも「学生フォーミュラ」は全国的に注目を集める大会ですから、出場校として名前が載った今回も取材の申し込みがあったり、他大学の出場校から交流をしたいと連絡があったりしました。工学系の大学であの大会に出るということは、大きな意味のあることですから、本学の工学部の伝統あるプロジェクトになれば、うれしいです。

■最後に受験生・高校生へのメッセージをお願いします。

 今、自動車の世界共通モデルを作るには、3D CADの自動車モデルを、例えば、日本、アメリカ、ヨーロッパと時差をうまく利用してワールドワイドで共有し、24時間体制で開発するバーチャルデザインが発展しています。また、3D CADモデルを構造解析や熱解析に使ったCAEによる設計アシストも活発で、それらなしでのモノづくりは考えられなくなってきました。つまり、これからの設計はICTツールを使うことがスタンダードになってくるのです。そういうものを使って、ぜひ一緒に電気自動車を作り、みんなで「学生フォーミュラ」に行きましょう!

■工学部電気電子工学科WEB:
https://www.teu.ac.jp/gakubu/eng/el.html