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積層磁性薄膜を用いた世界最高レベルの超高感度磁気センサーとその材料の研究に取り組んでいます!

2021年2月26日掲出

工学部 電気電子工学科 鶴岡 誠 教授

工学部 電気電子工学科 鶴岡 誠 教授

「磁石はなぜくっつくのか?」という根源的な疑問から磁性に魅せられたという鶴岡先生。企業研究員時代から磁性材料や磁性薄膜の研究に取り組んでおられます。今回は、現在のコロナ禍における電気電子工学科の授業の様子と先生のご研究についてお話しいただきました。

■新型コロナウイルス感染症の流行が続く現在、工学部電気電子工学科では、どのように授業を進めているのですか?

 工学部電気電子工学科では、基本的に対面授業と遠隔授業を両立しながら進めています。対面授業となっているのは、装置や材料などの実物に触れて、体験しなければ身につかない実験や、数学、電気関係の一部の科目です。また、卒業研究や大学院での研究も対面が原則です。実験の場合、人と人との距離を取る必要があるため、従来は1教室で行なっていたものを2つの教室に分け、各教室に担当教員や実験講師、助手がつく形で学生に実験を体験してもらっています。
 オンライン授業は、教員によって若干の違いはありますが、基本はオンデマンドとリアルタイムの両方を使うことが多いですね。オンデマンドでは、1日以内に動画を見て、1週間以内に課題を提出するというケースもあれば、必ずその授業のその時間に動画や資料を見て、課題を提出してもらうという場合もあります。学生たちがどれだけ授業内容を理解しているのか、それぞれの状況や進捗を定期的に確認する必要があるからです。
 また、オンライン授業の導入に関しては、比較的スムーズだったと言えます。本学の場合、学生は全員ノートパソコン必携ですし、工学部では現在のようなオンライン授業になる以前から授業内で課題の提出や授業資料を共有する際、学生たちにノートパソコンを使ってもらっていたので、大学側にある程度のノウハウがありました。また、1年生に関しては、初めてのことで少し大変な面もあったようですが、従来からあるパソコンの使い方を初歩から教える授業を、今年度は遠隔授業で実施できました。ですからほとんどの学生が自分のパソコンを使えるように、きちんとフォローできていたと考えています。

■オンライン授業のメリット・デメリットについてお聞かせください。

 学生の授業への感想を聞くと、オンデマンドの授業動画や録音、資料などを繰り返し見ることができて良いという声が少なからずあるようです。従来の授業では、うっかり聞き逃したり、場合によっては雑音などで聞こえなかったりすることもありますが、オンラインではそういうことがなく、勉学に集中できますからね。こうした利点は、今後、感染状況が落ち着いて、対面授業を増やしていくことになっても、うまく活用していくと良いのではないかと思います。
 一方、今後の課題としては、特にコミュニケーションを重視する学生への対応が挙げられます。遠隔授業ではチャット形式やメール形式で、学生が教員に質問できるようにしていますが、学生の中には教員に直接、会って質問や相談をしたいと思っている人もいるようです。また、学生同士で教え合う機会がなかなか持てないので、そういうことを望む学生はオンライン授業に少し不自由を感じているようです。

■では、先生の研究室での取り組みについて、教えてください。

 私の研究室では、省エネルギーかつ高性能な磁気センサー、DNAセンサーの素材の開発を目指した基礎研究に取り組んでいます。磁気センサーを説明するのに、一番分かりやすいものとして磁石があります。磁石はとても身近なものですから、みなさん親しみがありますよね。その磁石の特性のひとつには、ご存知のように、くっつけるというものがあります。例えば、冷蔵庫や黒板に紙を貼るときに使う永久磁石がそうです。しかし、単にくっつけることだけでなく、「反応する」というもうひとつの磁石の特性があります。
 反応する磁石とは、普段はくっつかないのに、永久磁石が近づいたら反応してくっつくというものです。例えば、普通の金属クリップどうしを近づけてもくっつきませんが、永久磁石が近づくとクリップも反応してくっつきます。それはつまり、クリップも「反応する磁石」だということです。磁気センサーは、このような永久磁石に反応する特性をうまく利用したもので、一番身近な例では、扉の開閉センサーが挙げられます。冷蔵庫の扉を開けたとき、庫内の照明がついて、冷却が止まりますよね。扉のどこかに小さな永久磁石をつけておいて、扉が近づくと反応する。つまり扉が閉まっていれば反応する、逆に扉が開いて遠ざかると反応しない、その違いをセンシングすることができるわけです。それが磁気センサーであり、正確に動くものを安価でつくることができます。
 また、非常に高度な利用として、磁気ヘッドという部品があります。これは特にデスクトップパソコンに情報をたくさん記録するためのハードディスク装置に使われているもので、高機能な磁気センサーだと言えます。他にも自動車の中にたくさん使われていますし、医療機器のMRIも磁気センサーとは少し違いますが、磁気の原理をうまく利用したものです。それから超電導を使った磁気センサーもあります。これは現在、世界最高感度と言われていて、心臓や脳の働きまで捉えることが可能です。

上図は、研究している積層磁性薄膜の例です。三層の積層で、合計の厚さは 1μmの約1/3(310nm)です。
下図は、実線矢印が上層の磁化、点線矢印が下層の磁化を示しています。
  (a)、(b)、(c) の順に磁化が回転する様子を示しており、これらを高周波で回転させて磁気センサーに活用する所が要点です。

 さて、私たちの研究室では、今、世界最高レベルの超高感度磁気センサーの開発を、超電導とは別の方法で実現しようと取り組んでいます。具体的には、積層磁性薄膜という髪の毛の太さほどの大きさで、厚さは1000分の1ミリより薄いものを研究の対象にしています。この積層磁性薄膜は強磁性材料でできた2枚の薄膜の間に磁石でない薄膜をはさんで、それらの3枚をうまく積み重ねたもので、それ自体は35年前に学会で発表したものです。とくに目新しいものではありませんが、使い方を工夫することで、全く新しい超高感度磁気センサーができるのではないかと目されています。私たちは、その使い方の特徴から、スピン回転デバイス(SRD)磁気センサーと呼んでいます。そこで、用いる強磁性材料の研究や、積層磁性薄膜が磁気に応答する挙動・性能について、調査や基礎実験をしています。また、超電導による磁気センサーは非常に低温にする必要があるため、多くのエネルギーを消費し、小型化も難しいです。他方、私たちが積層磁性薄膜で目指すものは、非常に小型でエネルギーも電池で動くレベルであるのに、心臓や脳、究極的には神経1本の働きまで調べられる磁気センサーです。この研究は私の研究室だけでなく、すでに国内外で研究が進められており、実現の可能性が高くなっていると考えられます。

左は、磁気センサー用・磁性薄膜材料を評価する研究室独自の装置(写真)です。
  磁気センシングのテストにも用いており、日々改良を行っています。
右は、脳の微弱な磁気を計測する超高感度磁気センサーのイメージ図です。
  卒業研究の学生が書いたもので、将来このような装置が実現することを目指しています。

■積層磁性薄膜の超高感度磁気センサーが実現した場合、どのような応用が考えられますか?

 省エネで小型化ができ、しかも最高感度が実現できる磁気センサーとなれば、色々と面白いことができるはずです。例えば、脳磁気や心臓磁気の計測による病気の診断や、神経の働きに関わる基礎研究も非常に進むでしょう。また、自動車や飛行機、もう少し未来になれば宇宙船といった移動体への応用も考えられます。さらに、正確に脳波が測定できるとなれば、居眠り運転防止にも使えるかもしれません。居眠りをしている時は、起きている時と脳波が異なるので、居眠りを捉えて警告することも可能でしょう。また、磁気の特徴として、身体に装置を付けなくても、脳波などが測れるという強みがあります。
 それからDNAセンサーというDNAの情報を測るセンサーの研究も手掛けていると話しましたが、これと磁気センサーには、“偏光解析”という研究の手法に共通点があります。応用先も似たような装置になるので、高感度のDNAセンサーも小型で安価につくられる可能性があります。例えば、今、世界を困らせている新型コロナウイルスに感染しているかどうかを、すぐに知ることができるようになるかもしれません。感染の有無を測定するDNAセンサーが各家庭に1台、あるいはかかりつけ医院に1台あって、毎日、10円程度で測定できれば便利ですよね。そんなふうにDNAセンサーを安価にできる可能性があると考えていますし、そういう理想的な目標を持つことは研究にとって大事だと思います。

■先生がこの分野に興味を持ったきっかけとは?

 子どもの頃からものをつくることや、色々な装置、機械を眺めることが好きでした。ものをつくって完成したら楽しい、あるいは壊れたものを修理できたら楽しいというところから始まり、だんだんなぜ壊れたのか、もっと良いものに改良するにはどうすればよいかという理屈部分に興味を持つようになりました。根源的な理科の知識や技術を知りたい、見たいと思い、大学では物性物理学の中の磁気・磁性を扱う研究室を選んだのです。物性物理学でも私の学生時代に最も華やかだったのは、半導体でした。そこから磁性への興味、つまりなぜ接着剤もないのに磁石はくっつくのか、なぜプラスチックや木にはくっつかないのかというところに興味を持つようになり、磁性物理学や物性物理学を勉強しようと思うようになったのです。
 大学を卒業後は、企業研究所で磁性材料や磁気記録といったハードディスクに関係するものや、磁性薄膜に関係する研究を手掛けるようになりました。そういう背景があるので、私としては基礎的なことだけ、あるいは応用だけに興味を持つのではなく、それらが混ざったところに目を向けてみるのも面白いのではないかと、学生に伝えています。

■最後に受験生・高校生へのメッセージをお願いします。

 工学部のような技術系の学部を目指す人は、進学する際にある程度、その分野への興味を持っていることだろうと思います。ただ、大学1、2年生は基礎固めの時期にあたるので、基礎や概論の授業が多く、自分のしたいことや興味のあることそのものを学べないと感じることもあるでしょう。とはいえ、興味のないことに接するうちに、新しい別の興味がわくこともありますし、後から自分の興味ある分野とのつながりを見つけることができるかもしれません。ですから1、2年生は、少し我慢することがあっても地道に勉強や調査をしていると、その先の3、4年生で面白いものが見えてくる、楽しいことが待っていると思って、がんばってほしいと思います。

■工学部電気電子工学科WEB:
https://www.teu.ac.jp/gakubu/eng/el.html