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アニメやゲームの制作現場で活用できる実用性の高いCG技術の研究に取り組んで、プロのクリエーターを目指そう!

2022年3月11日掲出

メディア学部 メディアコンテンツコース 川島 基展 特任講師

メディア学部 メディアコンテンツコース 川島 基展 特任講師

大学時代、授業で見た当時最新のCG映像作品に衝撃を受け、在学中にCGデザイナーとなった川島先生。恩師であり本学メディア学部の創設に尽力した金子満先生の誘いを受け、クリエーターとしての活動を続けながら、メディア学部の教壇に立ってこられました。今回は先生の研究室での取り組みや教育について、お聞きしました。

■先生のご研究や教育での取り組みについてお聞かせください。

 私の研究室「次世代CGクリエイション」では、新しい技術やアイデアによってアニメーションやゲームコンテンツ制作の効率化・高度化をはかる、実用性に重きを置いた研究に取り組んでいます。それと同時に、プロのCGクリエーターやゲームクリエーターを育成することも目指しています。
 まず、教育を含めた全体的な話からすると、私自身は実務家教員として、メディア学部の創設時から本学で教えてきました。実務家教員とは、私自身がプロのクリエーターとして活動しながら、本学の教育研究に携わるという立ち位置です。そういう意味で、私自身が目指すべきところは、学生に実用的な技術を身に付けてもらい、それを実社会の場で活かせるクリエーターとして育てる教育や研究活動をすることになります。メディア学部の学生は、ゲームクリエーターやCGクリエーターになりたいと思って入学する人が少なくありません。しかし、こうした業界では、新卒でもセミプロに近い制作技術が求められるため、とても厳しい世界だと言えます。ですから入学時から最後の4年生の仕上げまで、継続的に学習機会を与え、そこでしっかり指導する教育方法が非常に重要だと考えています。メディア学部では、1年次の初歩的な制作を実践する「プロジェクト演習」に始まり、必要となる知識を座学や講義で補いつつ、考える力も含めて3年後期から4年生にかけての卒業研究(以後、卒研)で仕上げをしていくという流れを作っています。また、技術的にもその過程でセミプロレベルのスキルをしっかりと身に付けられる授業設計をして取り組んでいます。

■では、具体的な研究例としては、どのようなものがありますか?

 近年のアニメやゲームにもトレンドがあります。例えば、主人公たちが全国の聖地を訪れる「聖地巡礼アニメ」のようなものは、高校生が身近に楽しんでいる作品のひとつかもしれませんね。そういうアニメでは、実在する建物をアニメとして描く必要があるのですが、忠実に再現することはなかなか大変です。制作現場の視点で見れば、そういう描画を既存の技術だけでつくることはできますが、その場合は家内制手工業的に努力して、何とかして作るということの積み重ねになります。ただ、実際の現場は、予算や制作期間の制約を受けて余裕がない状態ですから、できることが限られます。そういう課題に対して、例えば、「聖地巡礼アニメ」で使われるような背景CGを写真撮影と簡単なオペレーションで作成できないかと挑戦した卒研があります。「フォトグラメトリ」という被写体を様々な方向から撮影し、そのデジタル画像をコンピュータで解析・統合して、3DCGモデルを撮影する技術を応用したものです。もともとは、地図の測量などの分野で使われていたものですが、今はすそ野が広がり、エンターテインメントの分野でも使われるようになってきて、その技術を用いたソフトウェアも便利になりつつあります。ただ、その技術は、まだアニメ制作の現場までは降りてきていません。アニメ制作でその技術を応用するには、アニメに合った作り方とそのためのソフトウェア拡張が必要になるため、現場としては、そういう技術を使いたいけれど、自分たちで開発する時間はないので、ソフトウェアのアップデートを待つしかない状態なのです。そういう課題を解決しようと、今回、学生が卒研として取り組みました。
 
(写真撮影で聖地巡礼アニメの背景CGを生成する研究)


 学生には、こうした経験を通して、足りない機能に対して、自分たちでそれを作る力があるなら作ればよいということが言える人になってほしいと思っています。そうした表現のレベルアップに率先して取り組み、改善できる人になってほしいのです。もちろん卒研は、わずか1年間しかありませんから、できることは限られますが、それでも今までどの制作現場でもできていないことを達成することを目指して取り組んでいます。
 このように、高校生のみなさんが楽しんで見ているアニメでも、プロの現場ではまだまだ改善の余地や取り組むべき課題があります。そこには、単なるエンターテインメントの要素だけでなく、学ぶべき要素がありますし、職業として取り組む価値があるということを大学の学びの中で実感し、それを実践できるようになってほしいと思っています。

 この他、印象派絵画の画法をヒントに、ゲームの視認性を向上させる画像処理機能の研究に取り組んだ学生もいます。ゲームの表現は、ハードウェアのスペックが上がったことで、実写と区別がつかないくらいの表現ができるようになるなど、かなり進化しています。それでもやはり映像表現としてできていないことは、まだ多いです。例えば、絵画的な表現で、美しい世界観を創出するといったことはできていません。また、日本の場合、アニメがゲームコンテンツに与える影響も大きく、アニメのゲーム化というニーズがあります。ただ、ゲームの技術では、アニメのような表現が十分に整備されていないところがあるため、そこを少しずつ改善していこうと取り組んでいます。というのも、アニメの現場での作り方を、ゲームの現場が知らない、あるいは制約があってできないということがあるからです。しかし、工夫することで、アニメのような表現手法をゲーム制作にも取り入れられるだろうと、学生が取り組みました。その一例が、印象派絵画の画法をヒントにした研究です。
 印象派絵画の画法の特徴として、まず奥行きの表現が挙げられます。近景・中景・遠景とありますが、現実の世界ではその距離による見た目の違いは、だんだんと霧がかかるような、ぼやけたものになります。ちょうどカメラで撮影するとピンボケが起きるようなものです。絵画の場合は、作家の脳で置き換えられた形が表現されているところもありますが、印象派においては、遠近の距離がぼかしというよりはストロークを単純化する、つまり描き込まないことによって、遠景を表現するところがあります。また、色味の表現として、手前が暖色系、奥行きになればなるほど寒色系のタッチを加えていくという特徴もあります。そういうものをなるべく客観的なルールに置き換えて、いくつか画像を分解し、映像の加工をして重ね合わせる画像処理機能を作成しました。そうすると、通常のリアルな描写よりもかなり絵画的なタッチになります。それによって美術的な魅力が創出でき、ファンタジーの世界観をより強く表現できますし、奥行きの関係などを目立たせることでゲームプレーヤーの視認性を上げることができました。

(印象派絵画の画法をヒントにしたゲームの視認性を向上させる画像処理機能の研究)

■学生はどのようにして卒業研究のテーマを見つけるのですか?

 最初に私の研究室で取り組んでいる柱となる研究テーマについて説明をしますが、ほとんどの学生は自分でテーマを見つけてきます。というのも、メディア学部では卒研の前段階として、3年生後期に「創成課題」という授業を用意しています。そこでは卒研に向けての基礎的な学びとして論文などの文献調査をし、その分野を深く知ることをします。私の研究室ではそれに加えて、今のゲームやアニメ、映像の制作現場で行われている最新の取り組みや優れた取り組みを調べてきてもらっています。その調べてくる分野は、学生自身が就職を考えている分野にするという決まりもあります。また、ゲーム分野、アニメ分野という大きな括りではなく、例えば、動きを作るアニメーションのクリエーターや形を作るモデラー、特殊効果などを作るエフェクトデザイナーなど、制作現場にはさまざまな役割分担があるので、学生が就職活動でその内のどれに応募したいのかということまで決めてもらっています。その上で、自分の目指す分野の最新技術、優れた技術についてリサーチし、さらにその結果をもとに、就職活動で勝てるレベルを目指して作品作りをしてもらいます。実際に作ることで、その技術をしっかりと理解して使いこなせるようになるからです。そこまで吸収することを3年の後期までに終えます。そうすると多くの学生が就職を希望する分野の技術やその現状、これからの課題を見つけ、「この技術を応用すればもっと良くなるかもしれない」という発想に至ります。結果、それが卒研テーマになるというパターンが非常に多いですね。
  また、卒研テーマを考えてもらうときには、現場での実用性・有用性を必ず考慮しなさいと言っています。特に私の研究室では、プロの現場で活用できる技術の開発、あるいは自分自身がそれを活用できる人になってほしいので、卒研テーマと実用の直結は必須としています。  

■CGやゲーム制作の技術は、専門学校等でも学べますが、大学で学ぶこととどんな違いがあるのでしょうか?

 おっしゃる通り、こうした技術を学ぶことができるのは、何も本学のメディア学部だけではありません。専門学校や美術大学もあれば、他大学でメディア学部と同じような情報メディア系の学科も多々あります。ただ、それぞれに特徴があって、どこで学べばどういうスキルが身に付くか、あるいはその人にとってどういう学びの場が向いているかということは、違いがあると思います。
 例えば、本学のメディア学部生は、“東京工科大学”という看板を背負っていますから、美術的な表現技術だけ学べばよいというわけではありません。美術的な表現技術だけを身に付けたいのであれば、美術大学が適していると思います。そうではなく、表現の部分はもちろん、その制作技術(ICT)にも興味がある、あるいはそこを学ぶ素養をしっかり身に付けたいということであれば、本学のメディア学部が適しています。私がメディア学部で教育研究に取り組む際は、それら両面をバランスよく学べるようにすることを常に心がけています。
  また、専門学校はCG映像科やゲームクリエーター科とすることで学ぶ分野を特定し、限定した狭い範囲の内容を短期間で習得するという特徴があります。その中でも特にCGソフトウェアなどの制作技術やプログラミングのオペレーション技術に特化したものを学び、それを即戦力として現場に還元することが最大目標とされています。実際、現場の視点から見ると、即戦力という点においては、専門学校生は非常に強いです。すぐに作品をつくる力を備えていますからね。
 それなら、大学生はそれに劣るのかと言えば、そういうことはありません。やはり大学生は4年間をかけて、卒研までしっかり積み上げて学ぶことで、5年先、10年先の現場でどんどん進化していく技術や新たに作らなければならない制作環境を切り拓いていくだけの考える力と技術を備えているからです。また、卒研では、今ある技術を学ぶのではなく、それを応用して自ら新しい方法を模索することが求められます。それによって将来を切り拓く力を身に付けてもらうという目的がありますから、それを経験するかしないかは、大学生と専門学校生とで大きな違いが生じると思います。メディア学部では、単に作り方を教えるだけでなく、そういうところまでしっかり鍛えていくことを大切にしていますし、特に私の研究室ではそれを重視しています。

 ですから、どれが良いとか悪いではなく、そこは単純に役割分担ですね。すぐに即戦力でクリエーターとして活躍したい人は専門学校で学べばよいですし、大学に入ってじっくり学びたいという人は目の前の技術のことだけではなく、その周辺技術も含めて、大学の多様な授業の中で学んだうえで、さまざまな分野を応用して現場に還元すれば良いと思います。例えば、一見関係のないAI分野が、映像やゲームに役立つこともありますから、メディア学部生にはそういう幅広い分野を応用して、将来、制作現場や会社を牽引していく人材として育ってほしいと考えています。      

■最後に受験生・高校生へのメッセージをお願いします。

 まず、お伝えしたいのは、ゲームやアニメの制作は大学で学ぶべき、立派な学問分野であるということです。ゲームやアニメは、時に遊び過ぎたり見過ぎたりして、家族に叱られることもある、遊びの分野と思われがちです。そういう側面もありますが、作るという観点で言えば、日々、技術は進化していて、その背景技術はICTの中でも最も高いレベルと言っても過言ではないものが使われています。ぜひ大学で、そういうものを追究するということも進路の選択肢に入れてください。
 それから、CGやゲームを作る環境は身近になりつつあり、フリーのソフトウェアを使えば、ある程度のものは作ることができる時代になってきました。しかし、その作り方を覚えたからといってプロになれるわけではありません。当然、プロの世界における制作のノウハウやマナーがあるので、専門家に教わるということは、将来、クリエーターを目指すうえではとても大事なことです。
 また、先ほどお話ししたように、大学、専門学校、美術大学など、学ぶための機関は色々とあります。自分が将来、どういう立場で、クリエーターとしてどう活躍したいのかを考えたうえで、それらを選んでほしいですね。特にクリエーターとして、5年後、10年後に業界で活躍したいと思う人には、ぜひメディア学部を選んでもらえるとうれしいです。
■メディア学部 メディアコンテンツコースWEB:
https://www.teu.ac.jp/gakubu/media/020321.html