「コンピュータは今、大変革のとき。クラウドを使いこなして、新しい価値を生み出そう!」
コンピュータサイエンス学部 田胡和哉 教授

オペレーションシステム(OS)をはじめとするさまざまな先端的システムソフトウェアを研究している田胡先生。昨年9月からは、今後のコンピュータの在り方を大きく変える“クラウドコンピューティング”を授業に導入するなど、先進的・先駆的な取り組みを続けています。今回は、その取り組みの詳細について伺いました。
(過去の掲載はこちら→ https://www.teu.ac.jp/interesting/011956.html)
■まず、“クラウドコンピューティング”とはどういうものなのか教えてください。
クラウドコンピューティング(以下、クラウド)というのは、目には見えないけれども極めて巨大なデータセンターと呼ばれるところに、ものすごくたくさんのコンピュータの端末がネットワーク(インターネット)を介してつながっていて、それらの組み合わせでさまざまなサービスを提供するという利用形態のことを言います。簡単な例えで言うと、水道の蛇口が端末、浄水場がデータセンターで、蛇口(端末)と浄水場(データセンター)をつなぐ配管の役目をインターネットがしていると考えてください。
クラウドの特長は、ネットワークです。ネットワークさえあれば、今までコンピュータの端末として認識されなかったようなものでも、すべて端末になりえます。例えば、カメラやゲーム機、スマートフォン、電子ブック、カーナビなどですね。要するに無線LANが入っていれば、何だってクラウドの端末になるわけです。端末のブラウザからインターネットを経由して、データサーバー上でさまざまな作業ができるので、パソコンのように端末自体が高性能・高機能である必要はないのです。
また、クラウドを使うと、一般に2つのメリットがあると言われています。ひとつは、従来と同じようなコンピュータのサービスをより安く提供できるので、コストが安くなります。今のように高性能なコンピュータを買い、高機能なソフトウェアを買い、それを維持するお金をかけなくても、例えば大学内で同じソフトウェアを共同利用したり、いくつかの大学が集まって、同じソフトウェアを使ったりできれば、ソフトウェアの費用だけでなく、それを運営する人のコストもずいぶん下がります。企業でも同じことが言えます。つまり、全体のコストが安くなるという効果がある。日本国内では特にこの部分に、ずいぶんと注目が集まっています。しかし、クラウドの効果はそれだけではありません。世界では、クラウドで今までにない何か新しいサービスや付加価値が生まれるのではないかとの期待が高まっています。ITの分野は、クラウド化の流れとあいまって、今、すごく大きな変革期を迎えています。明らかに新しい価値が生まれつつあるのです。
こうした状況は、本学のような工科系の大学にとっても、大きな意味を持ちます。劇的な変化が起きている時代は、大きなチャンスの時代でもあります。そういうチャンスを確実につかめる人材、クラウドを使いこなせる、もしくは道具として大きな付加価値を生んだり夢を実現したりする人材を育成しなくてはならない。そういう使命が大学にはあると思います。学生に、クラウドサービスの利用者と提供者双方の立場を体験してもらうことによって、このような要請に答えたいと考えています。

■では、実際にクラウドを使ってどういう試みをしているのでしょうか?
例えば、「授業クラウドプロジェクト」というものがあります。その一環として今年は、「プロジェクト実習」という3年生対象の授業内で、クラウドシステムを使っています。具体的には、ウェブブラウザを経由し、プログラム開発や実行ができるクラウドシステム“L cloud”を研究室で開発し、それを授業で使っているのです。

手順としては、まず学生がブラウザを立ち上げ、“L cloud”のURLへ行き、ログインします。そこから授業に参加すると、例えばプログラミングの方法などを教える映像が出てきて、ブラウザ上で学ぶことができます。そしてそのまま、ブラウザ上で実際にプログラミングを作成し、すぐに実行して動くかどうか試すことができます。この場合、学生側の端末ではブラウザしか使っていませんから、パソコンだけでなく、例えばスマートフォンやiPadなどからでもアクセスして勉強することもできるのです。そしてこの試みの良いところは、自分のペースで学べる点です。

学びの速い人は他の人の倍の速度で課題を終えることができ、ゆっくり学びたい人は映像を繰り返し見ながら自分のペースで学ぶことができ、さらに発展的に学びたい人には、映像さえ用意しておけば、先に進むことだって可能です。また、これまでは学生が各自のノートパソコンでプログラミングを行っていたので、教員にはその進捗具合がわかりませんでした。ところがクラウドを導入したことで、教員はデータサーバーを見に行けば、学生がどこまでできているのかをすぐ把握できます。ですからプログラミングの授業の場合は特に、普通の講義よりもクラウドを使って学ぶ方が遥かに選択肢を増やせるため、内容を充実させることができ、その結果として多くの教育効果が期待されます。
さらに、この「プロジェクト実習」の後期には、クラウドを使ったロールプレイングにより、“世の中に受け入れてもらえるソフトウェアの企画方法”について練習する予定です。学生をベンチャー企業の社員と想定し、5000万円の予算でサービスの企画を立ててもらいます。もちろん企画して終わりではなく、プレゼンテーションをしたり企画書をつくったりして、最後には融資を得られるかどうか、つまり専門外の人を説得するところまでしてもらいます。本学の大学院にはアントレプレナー専攻があるので、技術や企業経営の最前線を知るそこの先生方にご協力いただく予定です。なぜこういうことを学んでもらいたいかというと、これからのエンジニアは、ビジネスマインドを持ってものづくりをしていかなければ立ち行かなくなるからです。ところが日本のIT教育では、この部分が最も遅れています。それを本学では補うことができ、さらに大きな真価を発揮することができると思っています。なぜなら企業出身の教員が多く、社会との連携も多い、自由度の高い大学だからです。

■研究室の学生たちも、クラウドには関係しているのですか?
もちろんです。「授業クラウドプロジェクト」で最初に使ったクラウドシステムは、日本IBMの協力を得て、去年の卒研生が開発したものですし、映像システムも学生が卒研でつくったものです。ですから卒研生や大学院生はクラウドのシステム研究開発を行い、その成果物を使って3年生の学生たちが学び、そのフィードバックを検討することによって卒研生や大学院生が再度学ぶという教育の構造になっています。
また、こうしたプロジェクトの活動母体として、コンピュータサイエンス学部内に「OSS(オープンソース・ソフトウェア)クラウドサービス・センター」を設けています。今は、これを全学部対象に広げる計画を進めているところです。具体的には、全学部の学生を対象としたクラウドサービスを用意し、パソコンだけでなくスマートフォンやiPhone、iPadでも利用できるようにしようと考えています。例えば、学生の意見や発表を共有したり、次の学バスまで何分だとか、時間割の管理、履修登録をしたりすることなどをすべてクラウド上でできるようにしたいと思っています。このようなサービスを、学生自身の手で作り上げてゆくことにより、提供者としての体験を十分に積んでもらえるようにする予定です。
■今後の展望をお聞かせください。
技術的な研究で言うと、例えばさっきのクラウド上でプログラミングができるようにしたというのは、一種のコンテンツですよね。ああいったコンテンツをつくった瞬間に、世界中で共有できるようなクラウドの仕組みをつくろうと研究しています。また、前回の取材でお話した会話にのってくれるコンピュータの研究も継続しています。というのも将来、家庭の中にクラウドのサービスが入ってくることを考えると、その利用はマウスやキーボードを使ってではなく、もう少し人間に近いやりとりになると思うからです。その鍵となる技術は“会話”だと、私は思っています。まだ技術的に解けていない課題で、基礎研究として取り組んでいる状態ですが、これは地道に研究していきたいと思っています。
[2010年7月取材]
■オープンソースソフトウェアシステム研究室(田胡研究室)
https://www.teu.ac.jp/info/lab/project/com_science_dep/60.html
■プロジェクト独自ページ
https://www.teu.ac.jp/t-lab/
・次回は10月8日に配信予定です。
2010年9月10日掲出
