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抗酸化能評価用センサーを開発して、カロリー表示のように抗酸化力を数値で表示させたい!

2012年7月13日掲出

応用生物学部 後藤 正男 教授

応用生物学部 後藤 正男 教授

カーボンナノチューブを利用したバイオセンサーなど、医療関連の研究を中心に手がけている後藤先生。前回の取材で紹介した糖尿病検査機器の研究に加えて、新たな研究が進展を見せています。そこで今回は、今、研究室が力を入れている研究についてお話しいただきました。
(過去の掲載はこちらから→ https://www.teu.ac.jp/interesting/012983.html )

カーボンナノチューブの電子顕微鏡写真

■前回の取材で伺った糖尿病検査機器の研究では、どのような展開がありましたか?

糖尿病検査機器の研究は、今も変わらず続いています。カーボンナノチューブという素材を利用して、血液に含まれる生体成分から糖尿病にかかっているかどうかをチェックする高感度のセンサーを開発しようと取り組んでいることは、前回お話しした通りです。進展としては、生体成分の中でも糖尿病を判断するのに最も重要なHbA1c(ヘモグロビンA1c)が検出できるようになり、共同研究のメーカーとともに論文発表と特許登録を済ませました。ただ、製品化の道のりは、かなり険しいです。医療に使われるものですから、臨床データがたくさん必要ですし、医師からの信頼も欠かせません。従来品に取って代わることができれば良いのですが、まだまだそのハードルは高いですね。

抗酸化能を評価している研究室植物工場中の水菜

■では、新たに取り組んでいる研究について教えてください。

同じくカーボンナノチューブを応用した研究で、抗酸化能評価用センサーの開発に力を入れています。抗酸化物質という言葉は、ご存知でしょうか。身近なものでは、赤ワインやチョコレートに含まれているポリフェノール、それからビタミンCやビタミンEなどが例に挙げられます。“抗酸化”というだけに、文字通り体内の酸化を防いでくれるもので、老化やがん予防にも効果があるとされる物質です。抗酸化能とは、それらの物質が持つ抗酸化力のことで、それを評価するセンサーをつくろうと取り組んでいます。すでに抗酸化能を測定する方法はあるのですが、この研究室では電流の流れが良く、感度の高いカーボンナノチューブのセンサーを使うことで、従来法より簡単に、早く測定できるようにしようと頑張っています。従来法では、試薬からつくるため2時間ほどかかっていたところを、30秒で測定できるようにすることが目標です。 今、研究室では、さまざまな食品の抗酸化能を、従来法と抗酸化能評価用センサーの両方で測定して、その相関性を確認することに取り組んでいます。昨年、修士課程の学生が、水菜やホウレンソウなど約20種類の野菜について測定し、野菜については従来法と抗酸化能評価用センサーとで相関があることを明らかにしてくれ、学会発表もしてくれました。しかし当然ながら、もっと品目を増やして調べていく必要があります。ですから現在は、野菜に加えて、ワイン、日本酒、コーヒー、日本茶などについても調べ、基礎的なデータを集めているところです。ちなみに、食品から抗酸化物質を抽出する方法も研究室で独自に開発し、特許を出願しているところです。例えばビタミンCは水溶性、ビタミンEは脂溶性というように、抗酸化物質には特性があります。従来法では、そうした特性ごとにそれぞれを分けてから抽出する必要がありました。しかし当研究室では、それらを分けることなく、両方を抽出できる方法を開発したのです。それも研究の大きな成果と言えますね。

■抗酸化能評価用センサーが実用化した場合、どのようなことに役立つと考えられますか?

例えば、ある野菜の抗酸化能が最も高い値の時期に、商品を出荷するといった品質管理に使えると思います。あるいは、スーパーの店頭で抗酸化能を測定して表示できれば、抗酸化能における“食べ頃”を把握できるのではないかと思います。そうなれば、野菜を売る側には商品に付加価値が付けられますし、私たち消費者は、どういうものをいつ食べたら、体に良いかという目安を知ることができます。また、研究の最終的な目標としては、レストランのメニューなどにあるカロリー表示のように、抗酸化能を数字で表示できるようにしたいと思っています。カロリー表示並みに、一般に普及できたらうれしいですね。

■他には、どんな新しい研究がありますか?

研究室はバイオテクノロジーコースなのですが、学生の中には化粧品関連の研究をしたいという学生もいます。そこで学生の希望を入れて、3年ほど前からジェルネイルの研究を始めています。もともとジェル(ゲル)関連の研究は会社にいたときからしていたので、すぐに研究を始めることができました。女性の方はご存知だと思いますが、ジェルネイルはマニキュアとは少し違っていて、紫外線を当てることで硬化させて使うものです。このジェルネイルにアロマオイルの香りをつけることや、カーボンナノチューブの黒色を活用して、さまざまな黒色のジェルネイルをつくろうと取り組んでいます。というのも、黒色って緑がかっていたり光沢があったりと、その種類はいろいろありますよね。ところがネイリストの方に伺うと、ジェルネイルでは、それほどバリエーションが多くないそうなんです。ですから、黒もそうですが、いろいろな色が作れたらと思っています。また、アメリカでは、男性も身だしなみのひとつとして、透明のジェルネイルを爪に塗っている方が少なくないそうです。ただ、男性からは光沢のないジェルネイルの要望があるそうなので、その開発にも取り組んでみようと考えています。研究の進め方としては、年に2回、プロのネイリストを招いて、学生にネイルの指導をしてもらい、ネイルの知識やテクニックを簡単に押さえたうえで研究を始めるようにしています。ネイリストの方には現場での問題点を指摘してもらい、研究の参考にもさせてもらっています。現在は、学生がさまざまな色のジェルネイルをつくって光沢や色を数値化し、比較しているところです。また、同じ色を再現できるように、レシピをつくることも進めています。

ネイリストの先生から講義を受けている学生

■では、今後の展望をお聞かせください。

大きな目標としては、糖尿病関連のセンサーもそうですが、抗酸化能評価用センサーを世の中で通用するようなものにしたいと思っています。今後の研究の取り組みとしては、抗酸化能評価用センサーを食品だけでなく健康や化粧品関連でも使ってみようと考えています。詳しい説明は省きますが、健康関連ではストレスチェックに応用できると思いますし、化粧品関連では品質管理に使えるのではないかと考えています。それから、以前にも話しましたが、私としては、研究成果を必ず形にするところまでもっていくことをモットーにしています。ですから、いろいろな機能や特徴を持たせたジェルネイルを学生と一緒に開発して、いずれ製品として広めることができたらと思っています。

■応用生物学部 生体成分計測(後藤正男)研究室
https://www.teu.ac.jp/info/lab/project/bio/dep.html?id=2

・次回は8月8日に配信予定です。