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まずは実際に映画やアニメをつくってみること。そこで感じる情熱や経験した苦労が何より大切です。

2013年11月8日掲出

メディア学部 櫻井 圭記 講師<特任>

メディア学部 櫻井 圭記 講師<特任>

大学院在学中にテレビアニメ『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』の脚本家としてデビューし、『攻殻機動隊』シリーズや『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』など数々の話題作の脚本を手がけてきた櫻井先生。アニメーションなどの映像作品を企画・制作する「プロダクションI.G」に所属する傍ら、本学メディア学部で講師として教壇に立っています。今回は本学での先生の取り組みや教育に対する考えなどを伺いました。

コーカダイバー
コーカダイバー

■先生は、本学でどのようなことを教えているのでしょうか?

 東京工科大学のメディア学部には、カメラや編集機材、音響設備など、普通の大学には、まずないような機材が揃っています。そういう素晴らしい環境があるのだから、それらを使わない手はないだろうということで、「プロジェクト演習」という学生参加型の実践的な授業では、映像作品の制作を指導しています。今、取り組んでいる企画のひとつは、短編の特撮作品です。これは、もとを辿れば、僕が「プロジェクト演習」を受け持つ前に出会った1年生の学生二人が「特撮ものをつくりたい」ともちかけてきたことに始まります。僕自身は仕事としてアニメーション制作に携わってきたので、当初はアニメーションをつくる授業をと考えていたのですが、学生に企画があるなら別に特撮でも構わないということで、まだ授業にもなっていない段階から学生たちと一緒に作品をつくってきました。『情報戦士コーカダイバー』という作品で、学生がゼロから企画を立て、脚本を書き、役者をしてくれる学生を集めて撮影し、撮影した映像にCG加工を施したり編集をしたりという作業を行って、完成させたものになります。僕の学生への関わり方は、基本的に放任主義で、要所要所、アドバイスを与える程度に留めています。例えば、作品の方向性を決める最初の段階では、プロの特撮ものと張り合うのではなく、学生ならではのものを目指すようにと助言したり、内容もパロディの方向で考えなさいと伝えたりということはしました。そういうやりとりの結果、工科大という舞台を最大限、活かした内容に仕上がっています。ヒーローは工科大をモチーフにした“コーカダイバー”ですし、敵は大学生を堕落させることが野望という圧倒的なスケールの小ささを売りにした“ツイッタロウ”というキャラで、ネット上に嘘の休校情報を流しては、学生を混乱に陥れるという攻撃をしてくるんです。ちなみに衣装や着ぐるみは、プロの方に依頼してつくってもらったので、かなり完成度の高いものになっています。

2014年公開予定のアニメーション映画『ジョバンニの島』
2014年公開予定のアニメーション映画『ジョバンニの島』

 脚本に関しても、特撮の場合、ある程度ストーリーのフォーマットが決まっているので、そういうルールを押さえて書くようにということは指導しました。例えば、最初に学生が書いてきた脚本には、女の子の登場人物がいなかったのですが、特撮ものといえば、ヒロインは必須ですから、きちんと入れるように言ったり、あるいはヒーローは、一度は敵に負けそうになるけれど、最後には勝つという流れが基本だということを教えたり。カメラワークや撮影方法に関しても、例えば、ヒーローが変身したら、その変身している姿をしっかり見せるとか、必殺技を撮るときは、ヒーローの動きを左側から捉えたものを1回、右側からのものを1回と、別の角度から何度も撮影するテクニックを教えたりしました。そういうことは現場で教えていますが、それ以外は特に口を挟まないようにしています。機材の扱い方も自分で触って、覚えなさいというスタンスです。また、必殺技のビームが出るシーンは、「After Effects」というソフトウェアを使って処理しているんですが、それは1年生では扱えませんから、4年生にCGプロデューサーとして参加してもらい、制作を手伝ってもらいました。ですから制作も役者もすべて本学の学生が担当していますし、撮影許可を取るとか打ち合わせの段取りをするといったことも、すべて学生の仕事として取り組んでもらいました。
 それからもうひとつ、進めている企画に、ドキュメンタリー映像の制作があります。ドキュメンタリーを撮りたいという学生がいたので、今、僕がプロデューサーと脚本で関わっている、来年2月公開予定のアニメーション映画『ジョバンニの島』の制作現場に学生を入れて、メイキング映像を撮影しています。学生には、メイキングの撮影以外に、原画を1枚ずつスキャンしてデータを取り込んでいくといった作業の手伝いもしてもらっているのですが、現場の僕らはすごく助かっているし、逆に学生たちは早い段階で外の世界を知る良いきっかけになっているようです。

ヒーローイベントでの音響効果の作業
ヒーローイベントでの音響効果の作業

■こうしたプロジェクトを通して、学生にどんなことを学んでほしいと思いますか?

 率直に言うと、多くの学生は、与えられることに慣れ過ぎているように思うんです。今、お話ししたように「プロジェクト演習」は、学生が主体ですから、学生に自分で考えて行動してもらうことを求めます。ところが、中には「いつカメラの使い方を教えてくれるのか」「いつソフトウェアの使い方を教えてくれるのか」というように、教えられることを待っている学生もいるんですね。そういう姿勢ではダメで、やはり自分たちで考えて動かないと面白くないし、評価もしてもらえません。でも学生がそうできないのは、自分から発信することに慣れていないからだとも思うんです。ですから僕としては、この演習を通じて、学生に発信する機会を与えたいと思っています。

俯瞰カットの撮影
俯瞰カットの撮影

 また、当然、初めてのプロジェクトは問題の連続だと思いますが、そういうものから逃げないことも大事にしてほしいですね。僕の話をすれば、以前、Eテレのアニメ『おじゃる丸』の脚本を6年間、担当していたのですが、最初の3年間は本当に辛いものでした。もともと、この作品が大好きで、脚本スタッフに何とか入りたいとお願いして入れてもらったんですが、まったく掴めなくて、最初の3年間で採用された脚本の数は本当に少なかったです。何度も辞めようと思ったし、足がすくむくらい打ち合わせに行くのが辛かったんですが、でも自分から手を挙げたわけですし、先方から「もう来なくていい」と言われるまでは、辞めずに、逃げずにいようと決めてがんばりました。先方からしたら、いい迷惑で、辞めてほしかったかもしれませんけど(笑)。それでも続けていたら、4年目から突然、採用していただけるようになって。いよいよ監督に諦められたのかと思って聞いてみたら、そうではなく「良いから採用しているんだ」と言ってもらえたんです。たくさん苦労したけれど、やっぱり逃げずにいて良かったなと、今でも思っています。“努力”も“逃げ”も癖みたいなものですから、そういう意味では学生に努力する癖の方を身につけてほしいし、「あのとき、あんなに努力して乗り切ったんだから、今度もできる!」と思える成功体験を持ってもらえたら嬉しいです。

アイディアを形にしていくのには想像以上に大変
アイディアを形にしていくのには想像以上に大変

最後の最後まで段取りを細かくチェック
最後の最後まで
段取りを細かくチェック

■学生を指導するうえで、心がけていることはありますか?

 教員が学生に教えられることは、限られていると思っています。その中でも特に重要なのは、学生につくりたいと思わせること、情熱を植えつけることじゃないかと思うんです。例えば、学生が「After Effects」の授業を受けたとしても、それを使って何をするのか、どんな表現をしたいのかという目的を持っていなければ、単に習っただけで終わるはずです。逆に、こういうものがつくりたい、こういうビームを出せたら面白いのにと思っている学生なら、何時間かけてでも、その表現ができるまで取り組み続けるでしょう。だからこそ、学生に目的や情熱を持たせることが重要だと思うんです。そういう点からも学生が中心となって、実際に映画を撮ってみるという演習は、非常に身につくものが多いと思います。日本の教育は、どうしてもチュートリアルが長い印象を受けます。順序立てて学ぶことや基礎から学ぶことも大切ですが、それに重きを置き過ぎるとチュートリアルの間に飽きてしまうんじゃないかと。だから、何事も本題から入る。いきなり映画作品をつくってみる。見様見真似でつくる中で、後から基礎が必要なら戻って学べばいいと思うんです。僕としては「とにかくやってみなさい」と学生に言ってあげたいんですね。それで失敗したときは、教員である僕がフォローするから大丈夫だという気持ちで、教えています。そう思えるのは、自分自身がこれまで、そういう形で挑戦させてもらえてきたからです。

集合写真
集合写真

■確か先生は大学院生のときに、脚本家になられたんですよね。

 そうです。大学では経済学を学んでいて、研究者志望だったので大学院に進学しました。そこから脚本家の道に入ったのは、ひとつの論文がきっかけです。もともとメディア環境には興味があったので、修士のときに、2030年頃にはメディアインフラはどうなっていて、ICTはどのくらい進んでいるとか、そういう時代にはロボットがどれくらい一般化していて、ロボットと我々のインタラクションはどうなっているか、ということを論文に書いたんです。その論文の中に、アニメの『攻殻機動隊』を参考映像として引用していたところ、当時の指導教官で、今、本学部にいらっしゃる濱野保樹先生が、たまたま『攻殻機動隊』を制作している「プロダクションI.G」の社長と知り合いで、新シリーズが立ち上がるから、制作現場の見学に行ってみてはと、勧めてくださったんです。僕は特別、アニメ好きというわけではありませんでしたが、『攻殻機動隊』は好きな作品でしたし、研究材料になるかなと思って、行かせてもらうことにしました。見学で訪れた日、先方といろいろ話している中で、今度、制作が始まる新シリーズの設定について話していたら、「面白いアイデアがあるね」と言ってもらえて。『攻殻機動隊』は2030年を舞台にしたSFアニメなので、例えば、ユーロというヨーロッパの通貨統合があるけど、2030年にはアジアでも通貨統合が起こっていて、その通貨名はこうで、加盟している国はどこかというような話をしたわけです。そうすると、「その設定、面白いね」ということになって、「来週も来る?」と聞かれたんです。僕は正直「来たくないな」と思ったんですけど(笑)、なんだか断りにくくて、「じゃあ来ます」と答えてしまったんですね。ただ、次の週も行くからには、また新しいアイデアを出さなければとは思っていました。「今日も櫻井を呼んで良かった」と言ってもらえるようになりたいし、自分がそこにいてもいい理由をつくりたいと思ったわけです。だからバイト代も交通費も出なかったけれど、半年間、通いました。半年経った頃には、テレビアニメシリーズ(『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』)全26話の脚本プロットができ上がっていたので、そろそろ修士論文に専念しようと、監督に辞めさせてもらいたいと伝えたんです。すると「せっかくアイデアをたくさん出したんだから、脚本を1本書いてみたら?」と監督からお話をいただいて、思い出づくり的に書くことになったんです。もちろん脚本なんて書いたことがないから、見様見真似ですよ。でもそれを監督が気に入ってくださって、自分でも「こんな展開あるのか?」と驚きましたが、脚本の主力の一人として書かせてもらうことになったんです。そういう意味では、僕は当時の監督からチャンスをもらった身で、何者でもなかったのに、ダメ元で脚本を書かせてくださったわけです。その恩に報いるのは、監督に対してではなく、次の世代に対してだろうと思うから、僕も学生たちに同じようなチャンスを与えたいと思っているんです。

カメラ機材の例
カメラ機材の例

■最後に今後の展望をお聞かせください。

 最近、研究室では、新しいフルHDのカメラ機材を揃えたところなので、映画が撮れる環境がさらに整いました。なので、学生からどんどん企画を出してほしいですね。特撮でもアニメでも何でも構わないので、新しい企画を待っています。それから僕自身も短編映画を撮りたいと思っています。以前からちょっと考えている、学生同士のラブロマンスものの企画があるので、それを撮ってみようと考えているところです。

■メディア学部WEB
https://www.teu.ac.jp/gakubu/media/index.html

■シンデレラ・テクノロジー
https://www.teu.ac.jp/info/lab/project/media/dep.html?id=62

■サイバーシネマ・テクノロジー
https://www.teu.ac.jp/info/lab/project/media/dep.html?id=66

■カルチャー・テクノロジー
https://www.teu.ac.jp/info/lab/project/media/dep.html?id=80

・次回は12月13日に配信予定です。