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目に見えないけれど、世の中のほぼすべてのものに関わる電気電子工学を網羅的に学べます。

2014年11月14日掲出

工学部 電気電子工学科 茂庭 昌弘 教授

工学部 電気電子工学科 茂庭昌弘 教授

巨大な電気を扱う発電システムや電力ネットワークから、家庭内の電気機器やミクロの電子部品まで、社会のあらゆるところで活用されている電気電子工学を専門的に学ぶ電気電子工学科が誕生します。今回は学科の特徴や教育について、学科長の茂庭先生に伺いました。

■来年度から始まる工学部電気電子工学科は、どんな特徴を持つ学科ですか?

 はじめに、電気電子工学がどういう分野かというところから話しますと、これは人間で言えば体中をめぐる血管や神経みたいなもので、世の中の電気が関わるほぼすべてのものに関わっています。たとえば、電気エネルギーをつくる発電所のシステムや、そこからうまく電力を供給する送配電のコントロール技術、電力ネットワーク、太陽電池、自動車や電車、家電やパソコン、スマートフォン、それらの中で働いている電子デバイスやその材料など、大きな電気に関係するものから小さな電気に関係するものまで、非常に幅広い範囲で関わっているのが電気電子工学です。

 では、それらのどういうところを担っているのかというと、電池と電球とスイッチを思い浮かべてみて下さい。これらはバラバラにあると何も起きないけれど、それぞれをつなぐと、電球が光りますよね。このバラバラにあるもののことを要素と呼び、それらをつないで機能を持たせたものをシステムと呼びます。この要素とそのつなぎ方を設計・開発することが電気電子工学の仕事なのです。ですから当然、要素自体も研究対象になります。

 この要素とそのつなぎ方は、何も小さな電子機器の中だけの話ではありません。たとえば、スマートフォンの中には、さまざまな要素をつないでつくったシステム(回路ユニット)があり、そのシステムをひとつの要素と捉えると、さらにそれらをつないだシステム(集積回路)があるわけです。もっと広い視点でスマートフォン自体を要素と捉えれば、それらを通信網でつなぐことで、情報ネットワークというシステムを形成します。こんなふうに世の中はすべて多層構造でできていて、それら全てにおいて、つなぐ仕事をしているのが、電気電子工学の技術なのです。また、電力においても同じことが言えます。火力発電、原子力発電、水力発電、地熱発電などでつくった電気を電線でつないで電力ネットワークをつくり、変電施設でコントロールしながら世の中に配っているのは、電気電子工学の技術ですからね。

 今後、私たちの社会は、この情報ネットワークと電力ネットワークが融合された形になっていくと考えられます。そうなると、たとえば家庭の電力消費の情報を身近なところにあるセンサで捉えて、クラウド情報センターのようなところに集めてコンピュータ処理し、世の中全体で電力の配分を行うということも可能になるわけです。つまり情報ネットワークで把握した世の中全体の状況に合わせて、きめ細やかにエネルギーを供給する、あるいは電力が余っているところから足りないところへ融通するなど、その時点で最適な選択ができるようになるのです。このように何事も一部分を切り取るのではなく、トータルで考えていくことが、これからの社会ないし工学が目指す、環境と調和しながら発展できる、持続して発展する社会(サステイナブル社会)につながっているわけです。そのための技術を基礎から学ぶのが、本学の電気電子工学科だと言えます。

電力も電線でつないで電力ネットワークを形成
電力も電線でつないで電力ネットワークを形成
この場合、発電施設などは「要素」大規模ネットワークとマイクログリッドの多層構造

■では、電気電子工学科の教育の特徴について、お聞かせください。

 一般的な電気電子工学科では、電気工学系を中心に学ぶ人、電子工学系を中心に学ぶ人と大きく分野を分けて学ぶケースが多かったのですが、本学科ではそれらを分けるのではなく、全体につながりをもたせながら学ぶことで、広い視野を持った電気電子工学分野のエンジニアに育てることを重視しています。

 具体的には、1年生から2年生前期にかけて、基礎である電気磁気学や電気電子回路、数学などを学び、徐々に専門分野に入って行きます。ただ、最初にお話ししたように電気電子工学は範囲が広いので、専門が細分化していきがちです。ですから、どこかひとつの分野に特化するのではなく、各分野をまんべんなく学び、それらを連携させる形で指導していきます。また、そこにプラスして風力、太陽光、水力など自然の力を利用したグリーンエネルギーやサステイナブル電気電子といった、持続して発展する社会をつくるための技術(サステイナブル工学)に関連する科目も用意しています。

 実験においても同様です。まず1年生の段階で、電圧計など計測機器の使い方やデータの分析法、報告書の書き方といった、実験のお作法的なことを学び、それを入口に電気電子技術の基礎から信号処理、電力(発送電分野)に至る電気電子工学の全容を2年生の間に修得します。3年生前期になると、これまで学んだ知識を総動員させて、持続して発展する社会をつくるための技術(サステイナブル工学)に特化した、新しい実験内容に取り組みます。たとえば、グリーンエネルギーにおける電力変換の課題と関連技術を学んだり、発電所から電気をもらうのではなく、身近なところにある微小な電気を使うエネルギーハーベスティングの原理などを学んだりという感じで考えています。エネルギーハーベスティングの例でいうと、たとえば人間の体温を電気エネルギーにして動く腕時計などが挙げられます。これを実現するには、体温からもらう小さな電気エネルギーでも動く低消費電力の腕時計の開発が必要になります。ですからエネルギーをもらう技術と、それを使うための省エネ技術の両方を学んでいく必要があるのです。


電気電子工学科 カリキュラム
電気電子工学科 カリキュラム(演習・語学関連は記載省略)

■この学科で扱う研究には、どのようなものがあるのでしょうか?

 研究も教育と同じように、幅広い電気電子工学分野がまんべんなく揃う形にしています。実際、研究室は9つあって、大きく情報ネットワーク系と電力ネットワーク系の研究室が相互に連携する基本コンセプトを体現しており、さらにそれらの要素技術として不可欠なセンサ系、生体系、デバイス系の研究室を配しています。各研究室の紹介は、今後、詳しく取材されると思いますので、ここでは概要をお話ししましょう。

電気電子工学科 9つの研究室
電気電子工学科 9つの研究室

 まず情報ネットワーク系では、坪川宏先生の「ネットワークコラボレーション研究室」があります。坪川先生は、通信を専門にされていて、たとえば災害が起きた時に、中継局が壊れてもスマートフォンが途切れることなく通信できるようにする研究などに取り組んでおられます。また、情報ネットワーク系でありセンサ系でもある天野直紀先生の「センシング技術活用研究室」は、センサで捉えたいろいろな情報を、ネットワークを介して獲得し、活用する研究をされています。同じくセンサ系で、磁気センサなどに関連する素子を研究しているのが、「生活情報と磁気・DNA研究室」の鶴岡誠先生です。鶴岡先生はDNAのセンシング技術の研究もされています。

 少し毛色が違うのが、生体系分野の研究です。黒川弘章先生の「生体情報工学研究室」は、生物の仕組みに学んだシステムの研究を行なっています、それを電子回路に応用する研究をされています。それからデバイス系には、私の研究室があります。私自身はメモリを専門に研究していて、フィルム状の不揮発性メモリの開発に取り組んできました。また、私の研究室を一緒に運営している加藤秀行先生は、非線形動力学という理論計算のご研究をされています。一方、同じデバイス系でも「複合ナノデバイス研究室」の木村康男先生は、有機材料と無機材料のハイブリッドナノ材料を開発し、それをセンサや太陽電池などへ応用する研究をされています。

 電力ネットワーク系でありデバイス系でもあるのが、前田就彦先生の「グリーンデバイス研究室」です。この研究室は、持続して発展する社会をつくるための技術(サステイナブル工学)をイメージしやすい研究でもあって、窒化ガリウムを使った省電力パワーデバイスの研究をされています。窒化ガリウムは、先日、ノーベル賞を受賞した青色発光ダイオードの材料になる半導体です。

 一方、電力ネットワーク系の主流となる研究が、高木茂行先生の「電気エネルギーの制御と応用研究室」です。この研究室では、電気を必要なエネルギーの形に変換するときのロスを減らす電気・電子回路を研究しています。同じく電力ネットワーク系の主流である新海健先生の「ハイパワーシステム研究室」では、グリーンエネルギーを配電するのに不可欠な電力ネットワークの安定化について研究されています。新海先生のご研究は、これからグリーンエネルギーを根付かせていくうえで、絶対に必要となる技術です。

 このように小さな電気から大きな電気を扱う世界まで、横断的に研究テーマが配置されています。やはり持続して発展する社会(サステイナブル社会)の実現を考えるうえでは、要所要所の核となる技術に欠落があってはいけないので、全体を構築できるような研究体制をしいています。

■最後に、どのような人に電気電子工学科へ入学してほしいとお考えですか?

 想像力の豊かな人に来てほしいし、そういう人が向いている分野だと思います。なにしろ、電気電子の世界は目には見えないものを扱いますからね。社会のどこで役立っているのかが見えにくいということもありますが、まず電気も磁気も目では見えません。何も見えないのに、そこでは確かに何かが起きていて、それをイメージできなければならないのです。ですから見えるものだけでなく、見えないものも含めて考えられる、想像できる人に入学してほしいと思います。

 また、本学科の目標としては、社会の変化に対応し、自分で新しい分野をどんどん学んでいけるような人を育てたいと思っています。社会に出ると、学んだ知識がそのまま使えることは、まずありません。社会に出て企業で働いていても、常に知らないことに出合いますから、それを自分で調べて、自分の頭で考え、身につけていける力や工夫する姿勢を持ったエンジニアを育成したいと考えています。

・次回は12月12日に配信予定です。