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自分で考えて、調べて、解決しようとする能動的な姿勢を大切に

2017年5月12日掲出

医療保健学部 臨床検査学科 横田 恭子 教授

医療保健学部 臨床検査学科 横田恭子 教授

国立感染症研究所の免疫部室長を務めるなど、感染免疫学やウイルス学の分野において国内外で活躍されてきた横田先生。これまでに手がけてきたHIV感染症に関する研究について伺いました。

■先生のご研究について教えてください。

私の専門は、ウイルスの感染症です。ウイルス感染したときに、ヒトの体がどう反応するかという免疫応答の研究をしてきました。例えば、1980年代前半から関わるようになったHIV研究があります。当時、日本では血友病患者に非加熱製剤を使用したことから、多くのHIV感染者やエイズ患者を出した事件が問題となっていて、私が在籍していた国立感染症研究所が、国からの命を受けてHIVの研究を始めることになったのです。
そこで私は、HIV感染した患者の免疫応答が感染によってどう変化するのかということを調べていました。HIVウイルスは、遺伝子の中にウイルスが入るタイプの病気で、免疫を調節するヘルパーT細胞や樹状細胞・マクロファージのような免疫の主役となる細胞たちに感染することから始まります。 特に、樹状細胞というのは体内に侵入してきた病原体(抗原)を取り込み、他の免疫系細胞にそれを伝える役割を担う大事な細胞で、“抗原提示細胞”と呼ばれます。これにHIVが感染することで、どのうように免疫が障害されるのかという生物学的なところを研究していました。
HIVやエイズは、先進国の場合、今は薬で発症を抑えられる病気という認識になってきています。しかし、遺伝子の中に入り込んだウイルスをどう減らすかという難題がまだ残ったままです。結局、感染した人はウイルスの遺伝子をずっと持ち続けるため、薬をやめるとまたウイルスが出てきてしまうんですね。世界的な動きとしては、現在そういう難しい領域に研究が進んでいっています。

横田恭子 教授研究

フランス・パリ大学の高名なHIV研究者であるBrigitte Autran教授(左)の来日。感染研のラボの仲間と。

■先生が基礎医学の分野に進んだきっかけは何だったのですか? また、研究の面白さとは?

最初、私は内科医をしていたのですが、そこでは、毎日、たくさんの患者さんを診察するため、患者さんの症状に対して浮かんだ疑問について深く考える間もなく、次の患者さんを診なければならないという状況でした。なので、その人の病気を治療しているという実感が持てなかったのです。また、末期癌の方に対して、内科医ができることは限られているなど、内科は診断学として大変勉強になるんですが、治療には限界があると感じて。そういうところから、治療の根本となる基礎研究をしたいと思うようになり、今の道に進んだのです。
研究自体は地味な活動ですし、うまくいくことの方が少ないので、ストレスも大きいものです。でも、ひとつ、ふたつ、思いがけずうまくいったという経験がモチベーションになって続けてこられたのだと思います。また、研究でわかったことが何かのきっかけで、治療に結びつくかもしれないという思いは常に持ちながら研究をしています。

■授業では、どのようなことを教えているのですか?

私は臨床検査技師ではないので、医者の立場から病気を幅広く教えています。例えば、ウイルス感染学の根幹であり、血液検査の基礎知識として不可欠な「血液学」の授業を担当していますし、「臨床微生物学」という授業のひとこまでは、私の専門であるウイルス感染したときの免疫応答について教えています。
また、今年は4年生の卒業研究が始まるので、そこではワクチンに対する免疫応答を調べてもらおうと考えています。学生たちは病院実習に行く際、病院内に感染症を持ち込まないよう、事前にこれまでのワクチン接種履歴と、どれだけ抗体が体内に残っているかを調べて、実習先の病院に伝えないといけないんですね。また、インフルエンザのワクチンも実習前に接種します。それを利用して、子供のころに接種したワクチンの効果がどこまで残っているか(抗体や記憶T細胞の持続)を学生自身に調べてもらおうと思っています。また、インフルエンザのワクチンは毎年受けますが、接種してもインフルエンザにかかる人もいれば、接種しなくても一度もかかったことのない人もいますよね。そういう人たちのインフルエンザに対する反応の違いなども調べてもらおうかと思っています。

■最後に学生へのメッセージと、今後の展望をお聞かせください。

臨床検査技師の仕事は、病気の診断のために検査結果を出し、治療につなげることです。また、教科書にないような病気があったとき、自分なりに考えて、さまざまな方向で検査をすることもできます。実際に臨床検査の現場から見つかった研究成果もありますからね。
とはいえ、今や検査は優れた機械が何でも検出してくれますから、ルーチンワークで機械を操作するだけの仕事もあるでしょう。そのような状況でも何か問題がおきた時に、自分で考えて解決できるような、ある種の研究思考を持っていてほしい。ですから私は卒研のゼミでも、実験でうまくいかなかったときにどう考えるかというプロセスを大事にするように教えているつもりです。
また、学生には受け身の姿勢ではなく、疑問があったら自分で考えて、調べて、解決しようとする能動的な姿勢を持っていてほしいですね。臨床検査に関わらず医療分野は進歩がものすごく速いですから、学校で学んだことは卒業して仕事を始める頃にはもう古い知識になっていることもあり得ます。卒業してからが本当の勉強のスタートなのです。
来年は、いよいよ臨床検査学科初の卒業生が誕生するので、今から非常に楽しみにしています。卒業後、彼らがどのくらい社会で成長し、活躍してくれるかを見守っていきたいですね。それが教育の醍醐味ですから。

・次回は6月9日に配信予定です。