「バイオ医薬品」
研究の取り組み

バイオ医薬品って何?

従来の医薬品のほとんどは、「低分子医薬品」と呼ばれる小さな分子構造を持つ医薬品で、その生産は化学合成によって行われます。これに対して、近年、注目されているのが、低分子医薬品よりはるかに大きい分子量を持つ高分子医薬品である「バイオ医薬品」です。

「バイオ医薬品」は、遺伝子組換え、細胞融合、細胞培養などのバイオテクノロジーを利用して開発製造される医薬品で、少ない副作用で高い薬効が期待できるほか、幅広い病気に適用できるなど多くの利点を備えています。

この「バイオ医薬品」が実用化されたのは1980年代のこと。組み換えDNA技術を利用した糖尿病の治療薬「ヒト・インスリン」が、世界初の「バイオ医薬品」として承認されました。

その後、2000年ごろから、免疫の仕組みを生かして特定の標的に作用し高い治療効果を発揮する「抗体医薬品」が登場。乳がん治療薬の「トラスツズマブ」や、自己免疫疾患治療薬「トシリズマブ」などを先駆として、多くの抗体医薬品が登場し、今では、医薬品の売上高トップ10のうち、7~8品目がバイオ医薬品が占めるまで急成長しました。

RNAやDNAを用いる「核酸性医薬品」の開発も進められており、「バイオ医薬品」は、がんをはじめ、糖尿病、C型肝炎、慢性腎不全などの慢性病、クローン病や関節リウマチといった自己免疫疾など、さまざまな病気の治療および診断に欠かせないものになっています。また、発展著しい再生医療にも大きく貢献しています。

「バイオ医薬品」研究紹介

医薬品コースでは、バイオ医薬品に焦点を当てた先進的な医薬品教育・研究を積極的に進めており、
創薬関連の知識や技術についても詳しく学ぶことができます。

タンパク質医薬品 研究紹介

ラクトフェリンを用いたバイオ医薬品の開発

核酸医薬品 研究紹介

RNAの性質を利用したバイオ医薬品の開発

診断技術 研究紹介

生物工学を用いた検査診断技術の開発

がんを簡便に診断できる技術の開発

がん征圧に向けた取り組み 研究紹介

がんの早期発見を可能にする診断法の開発

核酸医薬品を用いたがん治療法の開発

タンパク質医薬品によるがん治療法の開発

ラクトフェリンを用いたバイオ医薬品の開発

自然免疫で機能するラクトフェリンというタンパク質に着目して、バイオ医薬品としての開発を進めています。タンパク質は体内で速やかに分解されるので、医薬品として開発する為には、その安定性を向上させることが重要です。体内安定性向上技術であるPEG修飾、抗体のIgG Fc領域との融合、アルブミンとの融合を行い、体内安定性向上に成功しています。特にアルブミン融合では、がん細胞に対する細胞傷害性が増強することを見出し、抗がん剤としての開発を進めています。

生物創薬(佐藤淳)研究室

FGFを活用したバイオ医薬品の開発

Fibroblast Growth Factor (FGF)は、タンパク質細胞間シグナル分子(細胞増殖因子)22種類のファミリーの総称です。FGFは生理的に、生体構成細胞の増殖・分化・機能などを多面的に調節しています。そこで、FGFやその改変タンパク質のバイオ医薬品としての開発や、FGF活性を制御する治療法の開発が進められています。活用例は多数ありますが、例えばFGF2タンパク質は床ずれや創傷の治療薬として、FGF1とFGF2の長所を兼ね備えたキメラタンパク質(FGFC)は放射線による組織傷害の防護やiPS細胞の培養に役立ちます。

細胞制御(今村亨)研究室

RNAの性質を利用したバイオ医薬品の開発

RNA(リボ核酸)は、遺伝情報を運んで、細胞の形や性質の決定に関わります。一方で、細胞の中でRNA干渉として作用すると、mRNAを配列特異的に破壊する物質として働きます。そのRNAの性質を利用するのが、バイオ医薬品の一つである核酸医薬です。当研究室では、がん細胞に対して死を誘導するRNAを創製して、"Psi1"という名前を付けました。これが、新しい遺伝子の発見につながりました。

機能性RNA工学(杉山友康)研究室

生物工学を用いた検査診断技術の開発

様々ながん細胞の表面には、その種類に応じてマーカータンパク質という「目印」が存在します。がん細胞表面のマーカーを簡便に可視化・検出できれば、がん細胞の種類の迅速な診断や、さらにバイオ医薬品の効きやすさの予測に利用できます。当研究室では、細胞表面のマーカーに結合すると蛍光を発する機能性DNAを開発し、マーカーに結合する抗体を用いた従来の診断技術よりはるかに簡便なマーカー検出技術の開発を目指しています。

生体機能化学(加藤輝)研究室

がんを簡便に診断できる技術の開発

「第5の塩基」であるメチルシトシンに着目し、がんを簡便に診断できる技術の開発に取り組んでいます。メチルシトシンは遺伝子の発現を制御する遺伝子スイッチとして機能しています。がん細胞ではこの遺伝子スイッチ状態が異常になるため、これを検査すれば簡単ながん診断が可能です。さらに、このスイッチ状態を検査すればバイオ医薬品の標的となる蛋白質の発現状態が明らかになり、バイオ医薬品を効果的に使用することが可能になります。

エピジェネティック工学(吉田亘)研究室

がんの早期発見を可能にする診断法の開発

がん細胞では、がんの抑制機能を持つ遺伝子が異常に化学的修飾(メチル化)を受け、不活化されていることが知られています。そこで、このがん抑制遺伝子のメチル化に着目し、独自に開発した機能性核酸を用いたメチル化の簡便検出の方法を研究。それによって、がんの早期発見が可能となります。

生体機能化学(加藤輝)研究室

核酸医薬品を用いたがん治療法の開発

がん細胞の抑制に有効な核酸の同定と、その配列を医薬品として応用する研究を進めています。がん細胞を特異的に死滅させる方法の開発により、がん治療への貢献をめざします。

機能性RNA工学(杉山友康)研究室

タンパク質医薬品によるがん治療法の開発

血中安定性が向上した免疫活性化タンパク質はがん細胞の攻撃に有効です。そこで、自然免疫で機能するラクトフェリンというタンパク質を使って免疫細胞を活性化させ、がん細胞を攻撃するバイオ医薬品の開発をめざしています。

生物創薬(佐藤淳)研究室

「バイオ医薬品」学生研究紹介(動画)

「バイオ医薬品」分野で学生が取り組んでいる研究を動画で紹介します。

がん細胞を細胞死に誘導する核酸医薬品の開発

アトピー性皮膚炎などのコントロールを目指す研究

がんのバイオマーカーを光学的に測定する方法の開発

がん細胞に対する抗腫瘍効果について研究

「バイオ医薬品」卒業生メッセージ

卒業生佐藤製薬株式会社八木下優貴 さん

2016年3月東京工科大学大学院
バイオニクス専攻修士課程修了
市立川崎総合科学高校出身(神奈川県)

研究室で鍛えた思考力・対応力を
医薬品づくりの最前線で発揮しています。

おそらく皆さんにも馴染み深い一般医薬品を数多く製造している佐藤製薬で、風邪薬や栄養剤などの製造に関わっています。身近な医薬品づくりを通じて社会に貢献できる点に惹かれて入社したので、やはり自分がつくった製品を店頭で見るとうれしく思います。在学中の研究室では、研究方針や実験内容を自分で考えることが多く、論理的かつさまざまな視点で考察・判断する力が身につきました。仕事は流動的でトラブルも発生するので、ロジカルに考えて判断したり、柔軟に対処する力は、自分の大きな支えになっています。研究発表で鍛えられたプレゼン力も、月例会議の報告の場で生きてます。